ロンドンのリッツホテルの地下には賭け金が高額なカジノがある。リッツクラブという名前で、豪華さが自慢だ。黒服のクルピエ(ゲームの進行役)が派手な飾りを施したテーブルのそれぞれを取り仕切っている。壁にはルネッサンス時代の絵画が並び、あちこちに配された照明が金ピカの装飾を照らし出す。気軽にギャンブルを楽しみたい人にとってはあいにくたが、リッツクラブは客を選ぶことも誇っている。中で賭けるには、会員の資格かホテルのキーが必要になる。そしてもちろん、少なからぬお金も。
2004年3月のある晩、ブロンドの女性がエレガントなスーツ姿のニ人の男性にエスコートされてリッツクラブに現れた。ルーレットをしに来たのだった。この三人組は、大金を賭ける他の客とは違った。そういう客にはたいてい無料のサービスがあれこれ提供されるのだが、この3人はその多くを辞退した。それでも、そこまで賭けに専念しただけの甲斐はあった。一晩のうちに10万ポンドも勝ったのだ。およそ少額とは言えないが、リッツほどのカジノではけっして珍しくもなかった。
3人組は次の晩にも戻ってきて、再びルーレットテーブルの前に陣取った。この日の3人の儲けははるかに多かった。最後にチップを換金し、持ち帰った額は120万ポンドに達した。カジノ側はこれを不審に思った。3人が帰った後、セキュリティ担当者が監視カメラの録画を調べた。すると怪しい行動が映っていたので警察に通報し、まもなく3人組はリッツクラブにほど近いホテルで逮捕された。
ブロンドの女性 (ハンガリー出身であることが判明) と共犯のセルビア人ペアは、詐欺罪で起訴された。当初の報道では、3人はレーザースキャナーを使ってルーレットテーブルを分析したという。スキャンしたデータは隠し持っていた超小型のコンピューターに送られ、それをもとに、ボールがどこに止まるかをそのコンピューターが予測するという手口だった。ハイテクの小道具と美女という取り合わせは、人目を引く記事にはおあつらえ向きだった。
だが、どの記事を見ても肝心の情報が抜け落ちていた。どうすれはルーレットボールの動きを記録してそれをもとに首尾良く予想を立てられるかは、まったく説明されていなかったのだ。それはともかく、ルーレットはランダムなはずではなかったか?
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